余白に溢れる森に佇むものづくりの拠点。スウェーデンのまちをモデルに

余白に溢れる森に佇むものづくりの拠点。スウェーデンのまちをモデルに

滋賀県南東部の東近江市、鈴鹿山脈のふもとに位置する「ことうヘムスロイド村」。この地域には古くから、宮大工や寺院の釣り鐘をつくる鋳物(いもの)師といった社寺建築に関わる人が多く住み、「匠の郷」としても知られていました。そうした歴史ある地域に、今から30年ほど前、ものづくりの作家が集まる「ことうヘムスロイド村」がつくられました。

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手工芸が盛んな湖東町を、新しい文化の発信地に

村の名前である「ヘムスロイド」とはスウェーデン語で、「ヘム」は「家庭の」、「スロイド」は「手工芸」を意味します。「湖東町に新しい文化・芸術の創造の拠点をとの構想が持ち上がったのが、『ことうヘムスロイド村』誕生のきっかけです。地元の伝統を守りつつ、現代のものづくりも推進する場所をつくるにあたって、モデルとしたのがスウェーデンのダーラナ地方でした」と教えてくれたのは「湖東地区まちづくり協議会」事務局長の小島秋彦さん。

村があるのは、田んぼに囲まれた森の中。工房として使用される北欧風の赤い屋根の建物4棟とセンターハウスを有する村が完成したのは1993年のことでした。工房はそれぞれ1~2組の作家が借りて、空きが出たらその都度募集が行われます。1994年には、ダーラナ地方にあるレトビック市と湖東町がともに手工芸が盛んであることなどから姉妹都市提携を結び(2005年に湖東町など1市6町が合併して東近江市が誕生し、2006年から東近江市が提携を継承)、交流は今も続いています。

一年に一度のイベントでは、誰もが余白を実感

(提供/ことうヘムスロイド村※)

大自然に囲まれたヘムスロイド村の散策は、基本的に自由。ただ作家たちが常にいるとは限らなかったり、制作拠点であることもあって、ふだんはひっそりと静か。そんな村の様相がガラリと変わる特別な日が、一年に一度の「ヘムスロイドの杜まつり」。全国から作家が集まって屋外にブースを並べ、作品の販売を行っています。コロナ禍を経た2023年には、久しぶりの開催で約3500人が訪れるほどの人気ぶりだったそう。

湖東エリアの豊かな自然。都市部から訪れると、この環境が何物にも代えがたい余白であることが実感できます。この地で育まれてきたゆっくりとした時間を慈しみ、丁寧にものをつくる発想は、たとえイベントの日一日だけであっても、やってきた多くの人の心に、ゆとりを与えてくれるでしょう。

型にはめない制作スタイルだから、作品に環境が映し出される

京都市出身で、現在は村を拠点に活動する版画家の松井亜希子さんに話を聞くことができました。こちらで活動している画家の友人を数年前に訪ねたとき、「こんな素敵なところが!」と感激。大津市にアトリエを構えていましたが、昨年ヘムスロイド村に空きが出たと聞きいて応募。2023年夏から入居しています。2024年の夏からは銅版画教室も開催予定です。

 松井さんは、樹皮の形、川、木々、葉脈、木の根、水面に映る波紋など、身のまわりにある、さまざまなものの形を抽出して作品をつくります。主に銅版画の手法を用いますが、銅版画のみにこだわると、凝りかたまってしまうとも。「銅版画は、描くための一つの方法だと思っていて、そこにはあまり固執していないんです。銅版画に水彩絵具を重ねたりもしますし、鉛筆でドローイングを描いたりもして、イメージを膨らませます」

既存の型にはめない、松井さんのゆるやかな創作スタイルもこの地の空気感に似ています。いわば余白に包まれて作風にも変化が。「そのとき身を置いている環境からインスピレーションを受けることが多いんです。私自身は気付いていなかったんですけど……。アトリエをここに移し、昨年末の展覧会に来てくれた友人たちから、『何だか、作品がすごくのびのびしたね』と言われました。長年、私の活動を見てくれている人がそう感じてくれて、うれしく思いました。以前のアトリエよりスペースが広くなったのとともに、静かで集中できるんですね。環境もよくなったので、作家としてのここでの暮らしを、とても気に入っています」

余白は何にでもなりうる……それがとても贅沢

「今回、〝余白のある暮らし〟をテーマにお話しをする、ということになって、改めて考えてみたんですが、余白って、何にでもなりうる可能性があるものだな、と気付きました」と松井さんは微笑みます。

そこで、余白の時間を演出するアイテムとして持参してくれたのは、お香と、ずっと気に入るものを探していたというお香立て。ようやく理想的な一品に出合えたそう。「先ごろソウル旅行で見つけたのがこれ。灰が落ちるのをきちんと受け止めてくれて機能的なうえ、デザインが美しい。お気に入りです。眠る前の少しの時間に、さわやかなウッディー系や柑橘系など好きな香りのお香を焚くと、リラックスできます。余白=気持ちに余裕がある状態なんだとあらためて実感しました」と松井さん。

そして「いろいろ考えると、何もしない時間っていうのは、やはり贅沢ですよね。一日の中にわずかでも、そういう時間があると、とても豊かな暮らしができるんじゃないかなと思います。日常的に忙しいと、余白って見失いがちですが、キャンプや旅行に行った先でぼーっとすると、これが大事な時間なんだなと気付いたりますよね。ここは、ふだんからそれに通じる空気が流れている場のように思います」

松井亜希子さん(版画家)

1984京都生まれ、滋賀県在住。2010年、京都市立芸術大学大学院(美術研究科修士課程 版画専攻)を修了。生活の中や旅先で目にした、さまざまな形を抽出して銅版画にしている。受賞歴に、「京都府新鋭選抜展 読売新聞社賞」(2023年)、「AOMORI PRINTトリエンナーレ 優秀賞(青森朝日放送賞)」(2014年)など。

松井亜希子さんの公式サイト

ことうヘムスロイド村

所在地:〒527-0102 滋賀県東近江市平柳町568

ことうヘムスロイド村

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この日、午前10時にスタートした取材。「ことうヘムストロイド村」の、松井さんの工房のなかにいても、小鳥の声が聞こえてきて、そのわずかなにぎやかさによって、かえって周辺の静かさが際立つのが印象的でした。ヘムストロイド村は、居住向けの機能は備わっていないため、松井さんは車で10分ほどかけて通っています。大学院卒業後に大津にアトリエを構えたときから、滋賀住まい。滋賀は住みよく、「野菜が新鮮でおいしい」「 琵琶湖沿いのドライブが気持ちいい」「以前、よく登った八幡山からの眺め」などおすすめポイントもたくさんあると言います。こうした日々の暮らしも、また、松井さんの制作に反映されるのでしょう。

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編集=文と編集の杜
取材・文=市野亜由美
撮影=畑中勝如(※除く)

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  • #余白のある暮らし
  • #滋賀の暮らし
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