山の中腹にポツンと建つ、店とアトリエを備えた住まい。設計図はあえて描かず、余白あるつくりが豊かさに 〜 ワイルドキッチン石窯パン工房 〜

山の中腹にポツンと建つ、店とアトリエを備えた住まい。設計図はあえて描かず、余白あるつくりが豊かさに 〜 ワイルドキッチン石窯パン工房 〜

訪ねたのは滋賀県東近江市にある「ワイルドキッチン石窯パン工房」。滋賀県の南東部に位置し、三重県と隣接する東近江市は、その昔、市場町や門前町に連なる交通の要衝の地として栄え、近世には近江商人が活躍してきた地です。お店から車で10分ほど行けば、鈴鹿山脈の山裾に拡がる愛知川上流の山村風景と、紅葉の美しさで知られる観光名所の永源寺があります。店主の堀内悟さんと妻で陶芸作家のツジタカコさんが、店舗と工房を併設した住まいをセルフビルドで完成させたのは2016年のことでした。

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二人の地元の中間地点での暮らし

「ワイルドキッチン石窯パン工房」があるのは、永源寺地域の小高い山の中腹。ドライブがてら、というより、こちらを目指して車を走らせるというのがぴったりな場所にあります。近くの道路に設置された看板を目印に坂道を登っていくと、木々に囲まれた白い壁の建物を発見。シンプルな外観に、木をつぎはぎしたような扉。おとぎ話に出てくるようなぽつんとある一軒屋です。

甲賀市出身の堀内さんと東近江市の八日市エリア出身のタカコさんの出会いは、2007年。陶器のまちとして有名な、信楽でのイベントだったといいます。当時、知り合った陶器会社の一角を借りて、天然酵母パンのお店をオープンしていた堀内さんと、陶芸作家の道を歩み出していたタカコさん。それぞれイベント出店していた折に、友人に紹介されました。その後、行く先々で、偶然何度も出会う機会が続き、意気投合したのだそう。

人生をともに歩み始めた二人。堀内さんは前々から夢だった店舗兼住居のセルフビルドに挑戦。解体現場からもらってきたという廃材を中心に、木や土など、できるだけ自然に還るものを使い、日本の伝統工法にもこだわって、約6年かけて完成させました。身を置いてみると不思議な味わいに満ちた空間です。それは「SHIRO」のデザインとは雰囲気は違うけれど、住む人が愛着を持って過ごせるというコンセプトは、共通していると感じます。 

毎日楽しめるように、“今日より、明日”

「ワイルドキッチン石窯パン工房」は2016年4月にオープン。まだその時点では、住居スペースには作業半ばの部分もあり、お店の中も開店2日前に陳列台をつくるような、慌ただしい幕開け。二人曰く〝スーパー綱渡り人生〟ですが現在は、ようやくほぼ全てが調ったところ。「いったんこのあたりで、つくるのはいいかな。あとは必要に応じて手を入れます」と堀内さん。理想はあれど、つくりこまない、余白を残して、それが埋まるタイミングがくることを楽しむ、自然体な暮らしがここにありました。

そんな堀内さんですが、パンへの向き合い方は、ストイックです。自家製の天然酵母を使い、薪で焼くパンはずっしりとしたハード系。発酵はゆっくり、少し時間をかけて、でも、焼き始めたら待った無し! タイミングをしっかりと見図っての作業です。一人でしっかりと向き合える数量のパンを焼くため、お店でのパンの販売は週末の金土日のみです。

「毎日、少しずつ切り分けてもらえたら、うれしい。だから、砂糖や油脂など使わずに“今日より、明日が旨いパン”を焼いています」(堀内さん)

手びねりで、少し手の跡が残るような作品を

パン屋のドアの、向かって左隣り、壁一枚を隔てた小部屋が、陶芸作家であるタカコさんのアトリエです。

タカコさんが陶芸と出合ったのは、京都で会社員をしていた20年以上前のこと。会社の先輩にすすめられて、近所にあった陶芸教室に通い始めたのがきっかけでした。「結局、みんな体験教室で満足してやめてしまって、私一人が残ったんです」と、おっとりとした口調で話すタカコさん。

ろくろを使わず、手びねり。そのゆっくりと仕上げていく手法とキャラクターがマッチしています。「少し手の跡が残るような、器と小物をつくっています」とタカコさん。大人のような、子どものような雰囲気が心地よくて好きという言葉どおり、眺めていると優しい気分になれる作品が、アトリエの棚に並んでいます。

馴染みの公園へ一人出かける、そんなひとときが余白

「暮らしの余白と聞いて、何か思いつくアイテムはありますか」との問いにタカコさんがあげてくれたのは、アトリエから車で20分ほどの距離にある「布施公園」。

「昔から知っている広い公園です。スーパーマーケットの買い物に行くついでに、時々、立ち寄ります。中央に大きな池があり、冬場は渡り鳥がやってくるので、近くのコンビニエンスストアで飲み物とおやつを買って、岸辺から眺めて楽しむんですよ」

公園が真っ先に思い浮かんだのは、「家の中には、余白がないから」だとタカコさん。日々の暮らしで二人でいることは楽しいけれど、たまには一人になりたいと感じたり、たくさん歩きたいとも感じるそう。

 「実は、(取材チームの)皆さんがだいじょうぶなら、700段の石段がある『太郎坊宮(たろぼうぐう・阿賀神社)』とかも紹介したかったんです」と、にっこり。堀内さんも公認の、タカコさんの買い物ついでの遠足はいくつかルートがあり、それは彼女が自分で自分の機嫌を取るために大切な余白のひとときです。

2年前の4月、タカコさんは、インスタグラムに「先週の日曜にワイルドキッチンはひっそり6周年を迎えていたようです いつもどおりパンを焼いて いつもどおりお客さんをお迎えして すっかり忘れていつもどおりなんて ありがたいことです」と、投稿していました。

この自然体が、二人の魅力。

つくるものには、人柄が表れます。パンも陶芸作品も、どちらも、手元に届くのを待つファンは多く、それに一生懸命応じる日々。それでいて、二人の暮らしには、どこかのんびりとした風も吹くよう。山の中腹に建つ一軒家で育まれた余白が、作品やパンを手にする人を優しい気持ちにしてくれます。

プロフィール

堀内悟さん

パン職人・「ワイルドキッチン石窯パン工房」店主。 1971年、滋賀県生まれ。甲賀市の飲食店に7年ほど勤めたのち、長野県の自然食レストラン「カナディアン・ファーム」へ。約2年、働くうちに天然酵母のパンづくりを始める。地元・信楽に戻り、間借り営業などを経て、自身の店「ワイルドキッチン石窯パン工房」を2016年4月にオープン。

堀内悟さん(ワイルドキッチン石窯パン工房)の公式サイト

ツジタカコさん

陶芸作家。1977年、滋賀県生まれ。会社勤めをしていた1999年に陶芸と出合い、2003年より「te-no-hira」の屋号で作家活動をスタート。展覧会やイベントへの出店も多数。作品は、〝すこし手の跡の残る 器と小物〟がメイン。

ツジタカコさんの公式サイト

*****

堀内さんは、質実剛健なパンを焼く人というイメージ。会う前は、少しコワモテな職人気質な人を想像していました。しかし、こちらの問いかけに、しっかりと考えながら、優しく、順序立てて語ってくれる堀内さん。そのユニークな話は、聞き飽きません。「おしゃべりが好きだから、長くなりそう。ごめんなさい!!」と、傍らで微笑むタカコさんが、たんたんとナイスフォローを入れてくれるのも、また素敵で、インタビューは和やかに進みました。

週末のパン屋さんの営業中は慌ただしいかもしれないからと、水曜日に取材に伺ったため(とはいえ、ドライフルーツの仕込み作業などの合間をぬってのこと、感謝です)、この日、パンは無し。今度、東近江市のまちを訪ねるドライブも合わせて、週末に再訪したいと思います。

編集=文と編集の杜
取材・文=市野亜由美
撮影=畑中勝如

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