“ちょうど良い”から生まれる余白を大切に
暮らしに優しい風を届ける木の“うつわ”たち

“ちょうど良い”から生まれる余白を大切に 暮らしに優しい風を届ける木の“うつわ”たち

いつも通りの朝食も、いただきもののおやつも、時短優先の他愛のない夕餉(ゆうげ)も……。食材をのせるだけでぐっと特別感を増し、豊かな時を刻んでくれる。そんな魔法のような木の“うつわ”を作る、木工・漆作家の名古路英介さん。 独立して工房を開いてから15年目。名古路さんが生み出す“うつわ”たちは、ブレることのない凛とした佇まいでありながら、どこか愛らしがあり、巣立っていった“うつわ”たちは、愛用者たちの暮らしに優しい風を運んでいます。 工房「studio SARI」があるのは、名古屋駅からわずか4kmほどしか離れていない街の中。自身のライフステージや家族を取り巻く状況など、さまざまな変化を受け容れながらも、都市の片隅で一人黙々と、木と向き合い続けてきた名古路さんが、今思う“余白”とは――。

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構想から完成まで、自由に表現できる木工のとりこに

※名古路様ご本人提供写真

大学卒業後、SEとして忙しい日々を送っていた名古路さん。「自分の手でモノを生み出す仕事をしたい」と一年発起し、岐阜県高山市にある木工家具職人の養成所へ入所したのは、20代後半に突入した頃でした。

高山での2年の研修期間を終え、東京にある手作り家具の工房へ。分業制ではなく、例えば一脚の椅子やテーブルを、木取り(板材から各部材を切り出すこと)から塗装、納品まで、すべて自分で手がけられる喜びとやりがいを実感したそうです。

作り手として、モノづくりに没頭する日々の中で、東京という多種多様な感性や文化が集まる場所に身を置いたことも、名古路さんの心を揺さぶるきっかけになりました。休日、東京に点在するギャラリーやショップ巡りを楽しむ中で、いつしか芽生え始めたのは、暮らしのシーンに、より軽やかにとけ込める“木のうつわ”を作りたいという思いでした。

この頃から次第に名古路さんのなかで、家具から“うつわ”やトレーなどの小物へと創作意欲のウエイトがシフトしていったのです。

木の“うつわ”づくりの基礎を学びたいと、日本各地にある漆器の産地の中から、ベースとなる木地作りの産地として知られる石川県の山中温泉を選択。発注者のオーダーに合わせた製作が主だった家具づくりに比べ、「つくりたい」という意思に率直に、自分自身の世界観を自由に表現できる“うつわ”づくりに、のめり込んでいきました。

作り手として生活者として感じる、街の“ちょうど良さ”

石川県での研鑽を経て、木工・漆作家としての歩みをスタートする名古路さんが、工房を構える拠点として選んだのは、生まれ育った愛知県でした。

「木工作家って、材料の調達や騒音問題、廃棄物の置き場所などいろいろな側面から、郊外に拠点を置く人が多いんです。自然豊かな環境の方がインスピレーションを受けやすいですしね。でも僕の場合は、独立するタイミングで子どもが生まれたばかりだったということもあり、父が所有していたこの建物をそのまま使えることや、実家の近くで両親のサポートを受けられるという合理的なメリットを優先したというのが、正直なところです」

当時、作家としての環境以上に、一人の生活者としての利便性を重視し、名古屋市内での作家活動を開始した名古路さん。

「必要に迫られてという部分が大きかったものの、実際に始めてみたら、想像以上にすべてが“ちょうど良かった”んですよね」とこの地域の優位性を語ってくださいました。

アーバンライフならではの生活の快適性や必要な物がすぐ手に入る便利さに加え、少し足を延ばせば海や山、川など豊かな自然にすぐ手が届くという街の規模のちょうど良さ。工房のすぐ近くには緑豊かな公園があり、気分転換に訪れることも。名古屋市外にある自宅からは、15分ほどかけて自転車で通っています。

さらに「都市ならではの文化水準や感度の高さが備わっていることは、お客さまとの接点が増やしやすいという点で、作家活動においても大きなアドバンテージになりました」と名古路さん。

愛知を中心とした東海圏には、常滑や瀬戸、美濃などやきものの産地も集まっています。さらに尾張徳川家の時代から連綿と続く茶道や和菓子の文化など、受け継がれてきた文化的な土壌があるエリアです。

「今後は、若い方にとっては少し高尚に思われがちな日本古来の文化と、ネオ商店街などで活気づく今どきの新しいカルチャーが、もっと融合していくと面白いなと思っています」

都市と郊外、現代と伝統の要素が程よい距離感で共存する愛知。その“ちょうど良さ”こそが、新しい文化を創造する“余白”につながっているのかもしれません。

歴史の積み重ねや先人の知恵に出逢えるのが木工の醍醐味

木を使ったモノづくりの魅力についてたずねると「木が一番厄介な点は、反ったり歪んだり縮んだり伸びたりと、激しく暴れること。でもその動きを予測して想定した上で、どんな技を凝らすのか、どのような仕上げにするのかを考えることが、難しくもあり楽しくもあるんです」と語ってくださった名古路さん。

「木を使ったモノづくりって、寺社仏閣に象徴されるような建築や建具など、すべてが伝統につながっているんです。だから“こういう木の性質や難題に対しては、この技法が使える”という道筋や技が、歴史を紐解けば必ず出てくる。木工を通して、そういう悠久の昔からの積み重ねや先人の知恵、工夫に出逢えるのも、木工作家の醍醐味だと思います」。

家族のために料理を作る時間が心の“余白”に

木に魅せられ、モノづくりの世界に没入してきた名古路さん。私生活では「独立してからずっと仕事に夢中で、家のことも子育ても妻任せでした」と振り返ります。

「ただ最近は、近くに住んでいる両親の状況に変化があったこともあり、少しずつ家族や暮らしの比重を高くしてきました」

「自宅で家族の分の料理を作る時間が増えたのですが、思いのほかそれが楽しくて。献立を考えて食材を調達し、作る段取りをイメージして、調理。“うつわ”に盛りつけて食卓に並べる。その一連の作業は、私にとってすごく心地よい時間だと気づいたんです」

料理をするようになったことがきっかけとなり、近年は新たにカトラリーのシリーズも誕生しました。「以前は、自分が作りたい“うつわ”やオリジナリティーなど、イメージするスタイルにばかり目が向いていた気がします。でも今は、使うシーンを想像したり、使い手の視点に立ったりしながらモノづくりをするようになりました。歳を取って丸くなったのかもしれませんね」と微笑む名古路さん。今年からは、一般の方を対象にした、木工講座も開講しています。

思いがけず訪れた、ライフステージや環境の変化によって生み出された時間の“余白”。

作り手としての自分と、家族を持つ生活者としての自分。その“ちょうど良い”距離感を見出したことが、結果的に心のゆとりにつながり、作家としての新たな境地への導きとなっているようです。

名古路英介さん

1976年愛知県生まれ。大学卒業後、SEとして一般企業に就職。26歳で退社し、岐阜県の高山にある木工家具職人の養成学校で技術を習得。東京の家具工房で3年勤務した後、石川県・山中温泉の研修施設で木地作りや漆器を学ぶ。帰郷後の2010年、父が自営業のために使っている建物の一部を借りて「Studio SARI」を設立。精力的に木漆工品の制作を続け、各地の展覧会への出品。シンプルでありながら、のせる物や合わせる“うつわ”を引き立てる美しい作風から、全国にファンを持つ。

Studio SARI

まとめ

*****

名古路さんと初めてお会いしたのは、10年以上前のこと。当時はまだ独立して今の工房を構えたばかりの頃で、作品づくりにも作家としての自分とも、ストイックに対峙されていた印象があり、作品自体からもその緊張感のようなものが感じられたことを覚えています。

今回の取材で改めて出逢った“うつわ”たちは、洗練された佇まいはそのままに、端々に宿る優しさが増した気がしました。

表現者としての揺らぐことのない信念がありながらも、しなやかに柔軟に、ありのままを受け容れながら自然体であり続ける名古路さん。その人柄が、影響しているのだと感じます。

これからも街や生活、家族と丁寧に関わり合いながら創造されていく、名古路さんの作品に注目したいと思います。

編集・取材・文=花野静恵
撮影=北川友美

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  • #名古屋の暮らし
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